「クリムゾンの迷宮」貴志祐介(1999年、日本)

火星の迷宮へようこそ。

 藤木芳彦が目覚めると、そこは見知らぬ紅の世界だった。 傍らに置かれていたゲーム機を起動すると、そこには「火星の迷宮へようこそ」というメッセージが。 そして、集められた 9 人の男女による過酷なデスゲームが始まる……。

 貴志祐介の作品の中でも人気作ということで、タイトルは知っていたのですが、今回やっと読了。 面識のない 9 人が疑心暗鬼になりながら腹のさぐりあいをする序盤から、メンバー間の対立が表面化し殺し殺される過酷な状況に追い込まれる終盤にいたるまで、息つく暇もないほど物語が進行していき、一気に読み終えてしまいました。 本作は主人公である藤木芳彦の視点で語られていくのですが、ゲームが進むにつれ凶悪さを見せるようになる他の参加者の描写が鬼気迫っていて、冷や汗が背をつたうような恐怖感、緊迫感が嫌というほどに伝わってきます。
 デスゲームものというと、小説、漫画、映画など様々な媒体で数多くの作品が存在しますが、本作は緊張感のある展開や生々しい描写が際立っていて、非常に読み応えがありました。 本作で印象的だったのが、サバイバル描写。 限られた物資の中で生きていくために、自生している果物だけでなく、爬虫類や虫、有袋類など、日常生活の中では想像するだけでも嫌悪感が湧いてきそうなものであっても、食べられるものであれば何でも口にしなくてはならない。 そのために、原始的な罠をつくり、捕え、殺して食べる。 そういった描写が妙に生々しくて……。 そして、終盤、一部のメンバーが餓鬼の如く人を食らうようになってから(ネタバレ反転)の展開は、貴志祐介の本領発揮とも言うべきグロテスクさで、読んでいて気持ち悪くなるほど。

 読んでいる間、よくあるデスゲームものか……という感想は正直拭えなかったのですが、それでもぐいぐいと引き込まれる筆力はさすがの一言。 そもそも日本におけるデスゲームものブームの火付け役となった「バトルロワイヤル」とほぼ同時期に発表された作品であることを考えると、当時読んでいればもっとインパクトが大きかっただろうな……とやや勿体ない気持ちになりました。