「蠱猫」化野燐(2005年、日本)

その”場”から生まれたモノは、認識されるだけでなく、人にさまざまな影響まで与えるようになる。
それを人為的にコントロールしたのが、人工憑霊。
人の心の奥底の無明の闇から生まれたモノよ。

 鬼神を具現化する書物を巡り、有鬼派と争う怪異バトルアクション。

 以下、若干のネタバレ注意。

 作中での鬼神論や怪異に関する解説、議論がとにかく濃くて面白い。 著者が怪異の研究家で、その圧倒的な知識量に基づく記述は非常に読み応えがあります。 本書における鬼神論の根底にある「鬼神が人の意識が生み出したもの」という考え方が好きです。 文庫化にあたって追加された巻末の関連図書案内も良かったです。

 人工憑霊蠱猫シリーズの第一巻ということで、物語としてはまだ序章。 主人公である美袋小夜子、白石優の能力が発現するとともに、有鬼派との対立が明らかになり、本格的に争いが始まるというところで一巻が終了。 物語が動き出し、面白くなってきたところなので、続きが気になります。
 映像を強く想像させるような描写が印象的で、冒頭の古書に囲まれた図書館別館の描写は本当に図書館の中に引き込まれたようでワクワクしました。 特に印象的だったのが、手術のシーン。 自分が自分でないものに作り変えられていく恐怖感、元に戻れないのではないかという絶望感。 読んでいる間の背筋がぞわつく感覚がすごかったです……。

 一方で、小説としてみると文章がややこなれていない印象を受けました。 ところどころで文章の時制が狂っていたり、一文ごとに改行が挟まっていたり、全体的に緩急に乏しく、テンポが悪かったりで、妙な読みづらさがあったのが残念。 登場人物の内面に関する描写が淡々として愛着が湧きにくいのも個人的に残念なのですが、映像的な描写に力が入っているので漫画やアニメなどの媒体だと映えそう。 調べてみたら、シリーズの序盤のみではありますが漫画化されているみたいですね。 あとは、シリーズの一巻目ということを差し引いても一冊で物語自体がほとんど進まないのでやきもきしました。 その分、個々の場面の描写が濃厚なので読み応えがあるのですが、人によって好みが分かれる一冊だなぁと思います。

 とはいえ、作中の鬼神論談義や、有鬼派という謎めいた組織の登場など、個人的には楽しめた一冊(8 巻目刊行以降、シリーズの続編が出ていないのが残念)。 妖怪などのジャンルが好きな人には割と刺さるんじゃないかなと思います。 妖怪ものの小説だと京極夏彦百鬼夜行シリーズなどが思い浮かびますが、あちらはミステリーなのでだいぶ毛色が違いますね。 同じような雰囲気を期待して読むと当てが外れるかもしれません。 また、ややグロテスクな表現が見られるので、そこも注意。